ユーフェミアが銃撃されたとコーネリアが知ったのは、コーネリアが公務から帰り、騎士にユーフェミアの居所を尋ねたときのことだった。ユーフェミア銃撃から、五時間半が経過していた。もちろん、何故伝えなかったとコーネリアは声を荒げたが、命に別状はなく、余計な心配は公務の邪魔になると言い返され、珍しくコーネリアのほうが折れた。そうして何も言わずに歩き出したコーネリアに、騎士たちは静かについていった。向かう先は当然、ユーフェミアの部屋だ。 「…外してくれ」 ここまで共にきた騎士たちにそう言い、彼らが命令に従うのを見届けたあと、コーネリアはベッドの傍らの椅子へと腰を下ろした。そうしてユーフェミアの掌を握ると、横たわる妹の顔を見つめ、苦しげに顔を歪めた。 血を大量に失ったせいか、青白い顔色。彼女の傷を覆う大量の包帯。顔にも手当ての跡がある。コーネリアは思う。この子は女であるのに、顔に、身体に傷跡が残ったらどうするのだ。 そしてコーネリアの視線はユーフェミアの髪へと移る。緩いウェーブ。淡いピンク。それだけでも見るものには、柔らかく、穏やかな女子という印象を与えるだろう。見た目も、中身も、本当に綺麗に育ってくれた。 次にコーネリアは自分が今握っている彼女の掌を見つめた。整えられた爪。細い指。まだ優しい命令しか知らない綺麗な手。…けれど彼女の優しさが、そのままの形で伝わっていくのはほんの僅か。多数のものには棘となり、傷となり、憎しみも悲しみも生み出す。ユーフェミアは知らない。己の行いの、残酷さを。別にコーネリアは、誰かが傷つくのを恐れているわけではない。コーネリアが恐れているのは、ユーフェミアの涙だ。彼女は苦しむだろう、過ちに気づいたときに。 そうしているうちにコーネリアは、深い水底に吸い込まれていくような感覚を覚えた。瞳から光が消え、焦点が合わず、だんだんと目の前が真暗になっていく。落ちた先で、ふ、と思う。…いっそこのまま。 「………ッ!」 そのとき己の脳内を過ぎった恐ろしい考えを打ち消すように、コーネリアはふるふると頭を横に振って、眠るユーフェミアに努めて優しい声色で声をかけると、部屋の外へ出て行った。 「ゆっくりおやすみ、ユフィ」 いっそこのまま、いっそこのまま、呼吸を止めてしまえばいい。そうしたら、夢に絶望することもなく、穢れも苦みも知らないままで この子は白いままで死ねるだろう! |