朝が終る
 
これで、きっと全てが終わる。
 

 
 
 
 
 
「じゃあ…行きましょうか、」
 
暗闇の中、用意された二つの車の前で、スメラギが静かに言った。皆はそれに無言で頷くと、内部に潜入する者、外部で待機する者、それぞれの車へ乗り込んで行った。けれど、刹那はなかなかそうすることができずにいた。それを見て、ロックオンがティエリアの後に続いて車に乗ろうとしていた足を止める。
 
「そんな顔するな、刹那」
 
必死に平常を保とうとしている刹那の瞳に確かに滲む怯えを感じ取って、ロックオンは軽めの口調で言い、その漆黒の髪をかき混ぜるようにくしゃりと撫でた。それによって、刹那が懸命に隠そうとしていた感情は、簡単にあらわになってしまう。ぐ、と唇を噛み締め、俯いた刹那の顔を強引に上げさせると、ロックオンは力強く、それでいて優しく、言った。
 
「大丈夫だ、…すぐ、終わる」
 
いつもと変わらぬロックオンの微笑みを見上げ、刹那は少しだけ緊張を和らげると、小さくこくりと頷き、ロックオンに背を向けて、車に乗り込んだ。
 
 
 
 
 
「…ごめんなさいね」
「え?」
 
走り出した車の中で運転席に座るスメラギが、後部座席のロックオンをちらりと見、小さく言った。
 
「急にこんなことになって…」
 
本当はもう少し早く迎えに行くつもりだったが、自分たちだけで解決できる可能性があったため、遅れてしまった、と。できればあなたたちをそっとしておきたかった、とスメラギが静かに告げる。その声に、彼女の優しさを感じ取って、ロックオンは柔らかく笑った。
 
「いえ、むしろ味方が増えて有難いですよ」
「でも、あなた…もう、人は…」
 
刹那にはああ言ったけれど、向こうは当然そんなふうに思ってはくれない。…今回の作戦は、殺し合うのと、大して変わらないのだ。
 
殺せないでしょう、とまでは言えなくて、スメラギの言葉は不自然に途切れた。
 
「平気です、…これで、最後ですから」
 
そう、これで最後。あの組織と関わるのも、人を傷つけるのも、人を―――殺すのも。
 
ロックオンが言って、スメラギが そうね、と答えた言葉の後、車内に少しだけ、沈黙が落ちた。
 
「…私たちはね、“心”を持ち始めた契約者やドールを集めて、
 できるだけ力を攻撃に使わない仕事に就かせるための団体なの」
 
その沈黙を切り裂いて、帰ったら、あなたの仕事探さなきゃね、とスメラギが笑う。
 
「…お願いします、」
 
曖昧に、戸惑ったような笑顔を見せ、そう答えたロックオンに、ティエリアだけが疑うような眼差しを向けていた。