おわりのうた
 
あなたがいるなら、ふたりでいるなら、楽園はここにある。
 

 
 
 
 
 
説明は、謝罪から始まった。
 
あのとき、ニールは瀕死の状態ではあったが、かろうじて生きていたのだという。そして捕虜としてEUに捕えられた。ソレスタルビーイングに関する情報を吐かせるため、治療され、生かされた。
 
しかしニールはいつまでたっても意識を取り戻すことなく、しばらくしてアロウズが結成されるころになると、ニールを処分しろという声が大きくなっていった。
 
それを結果的に救ったのが、ルイス・ハレヴィだった。ガンダムに強い憎しみを抱いていた彼女は、ソレスタルビーイングに対する脅しの材料として利用しようと、ニールの治療を続けた。けれど結局、戦いが終わるまで、…戦いが終わってからも、ニールの意識が回復することはなかった。
 
そうしているうちに、愛しい人の傍らに帰ることでルイスの心は変わり、純粋な優しさでニールを生かし続けた。…そして一年前、やっと目を覚ましたニールは、真っ白に記憶を失っていた。
 
「記憶を取り戻したのは、二日前だ…」
 
ふ、と急に流れ込んできた思い出。瞬間、思ったのは仲間のこと、戦いのこと、そして、刹那のこと。ニールはそのとき、誰より刹那に会いたいと思った。謝りたかったし、許されたかった。例え刹那にとっての自分が過去として終わっていたとしても。
 
「本当に、すまなかった」
 
刹那を置いていったこと。共に戦えなかったこと。傷つけたこと。その全てに。
 
「ど、して…謝るんだ…」
 
声が、膝が震えた。感情をうまく整理できず、喜びと嬉しさと、未だ信じられないという気持ちが渦巻いて、身体中を駆け巡った。
 
伝えたいことがあったのは刹那も同じで、そのことも、今のニールに対する答えも言わなければならないのに、それもうまくできなかった。
 
「…ニール…」
 
ただ、名前を呼んだ。
 
先ほど彼がそうしたように。伝わればいいと思った。いつだって求めていたのだと。焦がれていたのだと。
 
気付けば刹那の頬には幾筋も涙が伝っていた。ぼやける視界に、それでも彼が居続けている。目を閉じたら消えてしまいそうで、刹那は瞬きの度に恐怖した。
 
けれど、彼は消えなかった。呼び声に、少し悲しげな笑みを返してくれる。
 
あぁ、ほんとうにかえってきたのだ。
 
「ニール…ッ」
 
押し殺した叫びと共に刹那はニールの腕の中へ飛び込んだ。それを軽く受け止めて、ニールも刹那を強く抱き返した。
 
「夢を、見ていたんだ…」
 
刹那は落とすように小さく呟く。あのときに戻って、彼を救えたら。もしもここに彼がいたなら。そんな、そんなことばかりを考えていた。叶うはずのなかった夢。それが、叶った。
 
「…り…おかえり…ッ」
 
未だ言われ慣れぬ、言い慣れぬそれ。それでもなんとか声にする。刹那はその言葉が、とてもあたたかい、喜びと日常の言葉であると知っていた。
 
「………ッただ、いま…!」
 
答える声は、震え、掠れていた。しかしそこに滲むのは、確かな喜び。
 
 
 
今。全てがおわり、そしてはじまった。