「………っ!」 刹那は目を見開き、跳ね上がるように飛び起きた。冷たい汗が頬を、首筋を幾筋も伝い、はぁはぁと荒い息を吐き出す。シーツを強く握りしめたその手のひらは、かたかたと微かに震えていた。 あの日、心に刻みつけられた傷を、何度も何度も抉られる。一週間に一度は必ず見る、悪夢のような幻想。途中で、あぁまただと理解できても、閉じた瞳を開こうと思えないのは、そこに戻りたい場所があるからだ。 それと同時にもう一度、失う痛みまで味わうことになると、わかっているのに。 「……ロック、オン…」 少しずつ整ってきた吐息の合間に、刹那は彼の名前を呟いた。少しだけ、甘みを含んだ声で。 そう、刹那は、望んでいた。その夢を受け入れていた。その傷こそが彼の救いだった。失ったあの痛みを、永遠に忘れられぬ世界。忘却の忘却。彼は、その鮮やかな傷で、痛みで、流れて行きそうになる過去と繋がっていた。繋ぎとめていた。 忘れたくない。癒されたくなどない。これが、彼の遺したものの一部であるなら、それすら抱いてここに留まってみせる。 「…ロックオン、…」 刹那は何度も、名前を呼ぶ。もう声の返るはずのない呼びかけを繰り返す。 “刹那” それでも彼には聞こえた。彼には聞こえていた。鮮明に思い出せる。まるで今すぐそこで響いているように。 彼の、声を。彼のすべてを。 刹那は微笑った。口元を微笑に歪ませ、愛しげに虚空を見つめた。 あぁ、こんなに近くにいる。 |