その日のミッションは、二つ同時に行われた。一つは刹那とティエリアが、一つはロックオンとアレルヤがそれぞれ武力介入を行い、刹那たちは先ほどプトレマイオスへと帰ってきた。 しかし刹那はエクシアのコックピット内で不思議そうに首を傾げた。先に帰っているはずのロックオンたちの姿がなかったのだ。 「帰ってない?」 「…どういうことですか」 エクシアから降りた刹那は、スメラギから聞かされた言葉に目を瞬かせた。少し遅れてヴァーチェから降りてきたティエリアが刹那の代わりに問う。 「そんなに心配することじゃないのよ、ミッションはもう終わってるらしいから」 ただ少し手こずって、帰艦が遅くなっているだけみたい。スメラギが苦笑いと共に言うと、ティエリアは少し眉を顰めたが、黙ってその場から去っていく。刹那も少し安心した様子で、そのあとに続いた。 その後、ティエリアは部屋にすら戻らず、二人が帰艦したらすぐにわかるように、通路の壁に寄りかかるようにして立っていた。報告が聞きたいだけ、結果を知りたいだけだと言い訳のように思いながら。 そのティエリアの隣には、刹那の姿があった。ティエリア同様、部屋に戻っていないため、着替えもしていない状態だ。 そんなふうに二人並んで、無言のまま待ち続け、もう三十分近く経っていた。さすがに疲れも感じ始めていたころ。ティエリアは、目の端に映る動く物体に気づいた。不審に思ってそちらに目をやれば、かくん、かくん、と刹那の頭が揺れている。目も虚ろになって、今にも瞼が下りてしまいそうだ。 「…眠いのなら部屋に戻ったらどうだ、」 目線を眼前に戻して、ぶっきらぼうに、けれど精一杯の思いやりでそう言った瞬間。とん、と肩に感じた衝撃に、ティエリアがもう一度隣を見やると。 「なっ…」 ティエリアは瞳を大きく見開いて、身体をぴしりと硬直させた。くらくらと揺らいでいた刹那の頭が、とうとうティエリアの肩へと倒れこんできたのだ。 「…っ刹那・F・セイエイ!」 思わず声を荒げるが、刹那は完全に寝入ってしまったのか、微動だにしなかった。 「これが本当に緊急事態だったらどうするつもりだ!」 やはり君はガンダムマイスターに相応しくない!…最近は滅多に口にしなくなったそんな台詞を忌々しげに吐き捨てる。けれどティエリアは、その場を離れようとはしなかった。 「………ッ」 あれだけ人に過敏に反応する刹那が、これだけぐっすりと寝ているのだから、起こしてしまうのは少し気が引ける、とかそんなことは決してない。まだ任務から帰ってきていない二人を待つためだ。ただそれだけだ。 …というのは、ティエリアの心の声である。 そんなことがあってから、ほんの十数分後。 「刹那ぁ?」 「ティ…ティエリア?」 任務を終え、やっと帰ってきたロックオンとアレルヤは、呆気にとられたような、戸惑ったような声でその二人の名を呼ぶ。しかし、最初は驚きに染まっていた表情も、すぐに微笑に変わっていった。 二人の目線の先には仲良く支え合い眠る、刹那とティエリアの姿があった。 |