シャキ、と独特な音をたてて、彼の漆黒を切り落とす。昔に比べれば慣れたとは言え、未だ触れられることを嫌う彼の髪をこんなふうに扱えることに、少しだけ優越感を覚える。我ながら、若干恐ろしい思考だと思う。 「刹那、眠かったら寝てていいぞ」 「…いや、」 そう声をかけても、刹那は小さく拒否した。眠いのを堪え、必死で目を閉じないようにしているのだろうが、時々かくり、と頭が揺れる。その様がひどく可笑しくて、思わず笑い出してしまう。 「………っ」 押し殺した笑い声に気づいたのか、振り向いてこちらをキッと睨みつけてくる。 「悪い悪い、…でもホントに、眠いなら寝てろよ」 「…寝ている人間は、一番…無防備だ」 少し言いにくそうに、呟くように彼は言った。その言葉に、はっとする。 自分たちが戦いをやめてからもう数ヶ月が経つ。その間に、少しずつ少しずつ危機感を忘れ、警戒を薄めていった。けれど、彼だけは違った。戦い続けてきた子供。黒さばかりを見てきた子供。彼の闇は、数ヶ月でそれらを忘れ去れるほど、軽いものではなかったのだ。 けれど、だからこそ、これからは、あたたかさで覆ってやりたいと思う。 「そんなに信用ないかー?俺」 わざと茶化すようにそう言えば、刹那は少し俯いて言葉に迷う。その様子がとてもかなしいものに思えて、この話を終わらせる意味で、風に揺れる黒い髪をくしゃりと撫でる。 「―――ロックオン、」 「何だ?」 どこか緊張した、何を言われるのかと身構えてしまうような、重い声色。 「じゃあ、少し…眠らせてもらう」 しかし、続いたのは、そんな言葉だった。こんなことすら、彼にとっては普通ではないのか。苦笑が零れて、次の瞬間には泣き出したくなった。 「どうぞ、」 明るい声を出したつもりだったが、上手くいったかどうかはわからなかった。止めていた手を再び動かし始めて数分で、彼の穏やかな寝息が聞こえてくる。 いつか、いつかこんな些細な瞬間の積み重ねが、彼の、そして自分の、日常になればいいと思う。そんなことを願いながら、見上げた先には、面白いくらいに何もなかった。かつてそこを横切っていった戦争のための道具も、爆音も、悲鳴も。 ただ、目の痛くなるような青さが、あるだけだった。 |