アレルヤは、ティエリアのことをよく知らない。もちろん、ティエリア以外のメンバーのことも、知っていることより知らないことのほうが多い。逆に、アレルヤのことをよく知る人物も、いない。マイスターの情報は太陽炉の情報と並ぶ機密事項だ。それでも、向こうが自分のことをどう思っているかは別として、彼らが仲間であるのに変わりはないから、それでいいのだと思っていた。 それでいいのだと、思っていたのに。 一度目の警報が鳴る。 「―――ティエリア、」 呼び止める声を、抑え切れなくなった。返事など返ってくるはずがないことは、声を発する前からわかっていたのに、それでも横をすり抜けていくだけのその顔を、こちらに向けたいと思ってしまった。 二度目の警報が鳴る。 「ティエリア」 「…何だ、」 独り言のような呼びかけに、ついに声が返った。衝撃だった。元々大した用を用意していたわけではなくて、ただ呼びたいだけのようなものだったから、言葉につまって、心情をそのまま口にしてしまった。 「びっくりした…」 「?…話しかけたのはおまえだろう」 「そうだね、…ごめん」 すると、眉間に皺が寄って、不機嫌そのものといった表情になる。目元が少し穏やかに見えて、あぁ、こんな顔もするのだと、はじめて知った。 三度目の警報が鳴る。 「アレルヤ、」 「!」 こちらからの声が、必要なくなった。名を呼ばれる。向こう側から注がれる言葉に、歓喜が身体を駆け巡った。 「何?…ティエリア」 答える声は、呆れるほど浮かれきっていた。 少しずつ近づいていく。少しずつ知っていく。警報は鳴り続ける。これ以上は駄目だと何かが叫んでいる。心の中で、アレルヤは言い返した。 どうせもう、戻れない。 |